2016年1月4日月曜日

別の時代

ロベルト・ボラーニョ『はるかな星』斎藤文子訳(白水社、2015)は、このひとつ前に「ボラーニョ・コレクション」で出た『アメリカ大陸のナチ文学』(野谷文昭訳)の最後のエピソード「カルロス・ラミレス=ホフマン」の章を加筆訂正した中篇小説だ。『ナチ文学』でみとめられたボラーニョが依頼を受け、短時日の間に書いたスピンオフ作品だ。

登場人物の名前が変わり、話が膨らまされ、エピソードが書き足された。「アルトゥーロ・B」が「僕」に語ったことだとの体裁を取り、ということは、小説内の語り手はアルトゥーロ・B、すなわちボラーニョの分身たるベラーノということになる。スナッフ・フィルム、詩と殺人など、2つの大作(『野生の探偵たち』と『2666』)に通じるテーマが整い、ジョアンナ・シルヴェストリなどの後の短編に展開する登場人物が姿を現す。ここから、一気にロベルト・ボラーニョがロベルト・ボラーニョへと変貌していくのだ。


ボラーニョ・コレクションの次の配本は『第三帝国』。何を隠そう、柳原訳だ。『第三帝国』は、まだこのボラーニョ出現以前のボラーニョの若書きの作品で、小説内で扱われているトピックは、『ナチ文学』以後の彼とはだいぶ異なる。戦争ゲーム、夏のリゾート、ディスコ通いをする若者たち、年上の女性への憧れ、アメリカの傷跡、死の陰(角を曲がったところ、というよりも、入り江の向こうにある死)、・・・・・・といった作品だ。今年から来年にかけての「ボラーニョ・コレクション」配本の3冊には、新たな展開が見られる・・・・・・はず。