2014年3月4日火曜日

大人だって恋がしたい♡

これが『GRANTA JAPAN with 早稲田文学』01。表紙はもう今ごろあちこちに出回っているので、背面を。見えるだろうか? アンドレス・フェリペ・ソラーノの文字。この人の短編を僕が訳しているのだ。


製作に『トニー・マネーロ』のパブロ・ララインが名を連ねているだけあって(?)、始まりはディスコ、というかクラブ。離婚して12、3年になる中年女性グロリア(パウリーナ・ガルシア)が、そこで踊りながら新たな恋を探す、という話。〈めまいパーク〉という遊園地を経営するロドルフォ(セルヒオ・エルナンデス)と出会い、つきあい始めるが、1年前に離婚したばかりで2人の娘や元妻らにいまだに頼られている彼の言動と、真剣に今後の人生のパートナーとしてつきあいたいと考えるグロリアとの意見は時に擦れ違い、……という、まあよくあるラブストーリーと言えばラブストーリーだ。

が、まだ40歳くらいのレリオは、初老の性をもやんわりと表現したりはせず、あけすけに描くものだから、単なるラブストーリーでは終わらない。

それに、彼らの属する社会背景が時々透けて見えるので、ほっこりとしてばかりもいられない。2013年の映画だが、この少し前に盛んになった学生たちのデモ(授業料値上げに反対するもの)の時期を背景にしている。グロリアには30前後の子どもがいるから、60ちょっと前というところだろうか? ちょうど1973.9.11のクーデタで学生たちが虐げられたころに青春を送った世代だ。立派な家に住み、ホームパーティではギターなど弾いてボサノヴァを歌う、「チリを愛するなんて難しいことだ、まったく別ものになってしまったんだ、本物のリーダーもいない。若者たちはツイッターやフェイスブックに頼るしかない」なんて主張する社会学者が友人にいたりする。グロリアの子供たちはひとりはヴァイオリニストか? そしてもうひとりがヨガのインストラクター。それぞれ独立して上手くやっているけれども、ロドルフォの同年代の娘たちは、要するにドロップアウトして定職もないらしい。父にすがるしかない。しかしてその父、軍隊にいて、退役後は軍関係の商売をしていたというから、明らかにピノチェト派の有力者だったというわけだ。グロリアの離婚した夫は再婚しているが、なんだか酒乱みたいだし、娘との関係もちょっと怪しい……そうした背景が深みをもたらしている。

『グランタ』を受け取ったぱかりだったので、つまりソラーノの短編「豚皮」を思いだし、映画のセックスシーンの最中にグロリアが何か不思議な言葉を叫ぶのじゃないかと、気が気でなかった。なんちゃって。

一方、最近の関心から、気になったのは以下のシーン。アナ(ファビオラ・サモーラ)のところでヨガをして、レッスンがひけた後、グロリアは彼女に恋人を紹介される。テオという名のスエーデン人だ。少し英語での会話が入る。で、迎えの車が来たので若いカップルはそれに乗りこもうとグロリアに別れを告げる。アナはスペイン語で「もう行かなきゃ」といい、挨拶すをする。テオとグロリアの間にお決まりの挨拶が交わされる(英語で)。そして、車に乗りこむ瞬間、アナがグロリアに "Call me later"と言う。英語で、だ。 "I'll call you later" だったかも知れない。はっきりとは覚えていない。でもともかく、英語で言った。この使い分けというか、スイッチングというか、スイッチングのミスというか、それがなんだか面白いな、と。

……あーあ、恋がしたいな……


……なんちゃって。