2012年12月4日火曜日

女性雑誌を読もう!


フリア・アルバレス『蝶たちの時代』青柳伸子訳、作品社、2012

電車の中だけでという条件で読んでいると、意外に時間がかかるものだ。

ドミニカ共和国のトルヒーリョ政権下、「蝶」のコードネームで反独裁者運動に身を捧げたミラバル姉妹を描いた小説。美人4姉妹のうち3人までが反体制運動にかかわって投獄、釈放後、事故を装って秘密警察に殺された。今では記念館となったそんな姉妹の家を切り盛りする、ひとり生き残った三女のデデに、合衆国から女性が取材にやって来る。そこからデデの回想が始まり、やがて4姉妹それぞれの語り・もしくは日記が加わって、反体制運動や獄中での暮らし、殺される直前の旅などが語られていく。

著者自身が「あとがき」で「わたしは実際の姉妹を知るはずもなく、充分な情報も得られず、彼女たちのことを適切に記録できる伝記作者の能力もなければ、その気持ちもなかった」(425)と述べてフィクションだと断っている。4姉妹の語りの体裁を取って架空の主観によって歴史を語り直そうとしているのだ。バルガス=リョサ『チボの狂宴』、ダンティカ『骨狩のとき』、ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』らの他のトルヒーリョもの(?)に比しての本作の特徴はそこにある。性のことなども隠さない筆致が、生身の人間の生を伝えている。

ぼくが興味を抱くのは、次のようなパッセージなのだ。

 そして夜になると、専用バルコニーに座り、ハイミートがデデに腕を回して耳元で約束を囁き、デデは星空を見上げた。この前読んだ『バニダデス』に、星の光が地球に届くのには長い年月がかかると書いてあった。今、彼女が目にしている星の光も、何年も前に発せられたはずだ。星など数えて、何の慰めになるの? 暗い天空で、きらきらした角の半分がなくなってしまっているかもしれない雄羊を追って、何の慰めに? 
 空頼みね、とデデは思った。夜なんて真っ暗になればいい! だが、そんな漆黒の闇の中でも、彼女は星の一つに願いをかけた。(251-252ページ)

カリブの女たちは雑誌を読むのだ。今、手もとにないので確認できないのだが、マリーズ・コンデもミシェリーヌ・デュセックも、ロサリオ・フェレも、登場人物たちが雑誌を読んでは隣国や合衆国に憧れを抱いたりしていたような印象がある。

雑誌を読む女たち。女性雑誌を読む女たち。それに比して、男たちは雑誌を読んでいないように思うのだが……

今度、ちゃんと確認してみよう。人は小説の中で雑誌を読んでいるか? 

写真右は次に電車で読む予定の Juan Villoro, Arrecife, Barcelona, Anagrama, 2012