2011年10月25日火曜日

アフターケア


さすがに『野生の探偵たち』の後だけあって、燃え尽きたわけではないが、少しこぢんまりとの観を抱きつつ訳した『ブエノスアイレス食堂』。出足は好調のようで何より、評判も、ぼくの知り得たところでは悪くはないので、何より。

ところで、「あとがき」に触れようと思って、バルマセーダが『ブエノスアイレス食堂』の次に書いた小説『ディードーの懐剣』El puñal de Dido (Planeta, 2007)のことを忘れていた。せっかくだから、ちょっとだけ。『ブエノスアイレス食堂』を読んで興味を持った人もいれば、参考までに。

主人公はマル・デル・プラタ大学で文学を教えるパウリーナ。図書館で知り合った同僚(ブエノスアイレスから越してきたばかり)のホナスと恋に落ちる。ホナスは離婚調停中で、もてそうなやつで、教え子との関係も怪しまれている。パウリーナは博士論文を準備中で、テーマは恋愛の物語について。ホナスと出会った日から悪夢を見るようになるのだが、あたかもそれに導かれるように現実の恋愛や行動、心の動きが進んでしまう。友人の分析によれば、それらの夢はみな、古今の恋愛の物語(小説やオペラ)を下敷きにしたものになっている……というもの。その友人が恋人との間のDVに苛まれているというサブプロットもある。

料理、もしくは食人の次には、こうして恋愛の物語についての蘊蓄をちりばめながら、心理劇としての恋愛ではなく、あらかじめ書き込まれていた物語をなぞるものとしての恋愛の物語が語られているのだ。ちなみに、タイトルになっているディードーとは、もちろん、『アエネーイス』の登場人物。

今日、受け取ったのはSWITCH 11月号。これに河瀬直美とビクトル・エリセの対談が載っている。河瀬の提唱した3・11に寄せたオムニバス映画A Sense of Home に参加したエリセが、その奈良での上映に際して来日、河瀬と対談したもの。通訳の音声を基に編集者が起こしたものを、音声を手がかりにぼくが修正した。それで、翻訳として名を入れていただいたのだ。まあ、いつものごとく、途中から面倒になってほとんど最初から訳すのと変わらないくらいの文章にしてしまったけれども、ともかく、そんな仕事をしたのでした。この記事には出ていないけれども、インタビューの最後には次回作のことも語っていた。その中身はSWITCHのサイトで、やがてインタビューのロングバージョンが掲載されるらしいので、それに出るのかもしれない?