2011年3月16日水曜日

停電の夜

今日はいわゆる計画停電の3日目。3日目にして初めて本当に停電した。

今日は会議日で、自転車で大学に行ったのだった。家を出たのは11時少し前だったけれども、そのときは晴れた穏やかな天気だったから。爽快だった。

大学に着くと風が渦巻き始めた。参った。寒くなってきた。会議を終えて帰るときには本当に寒くなっていた。しかも向かい風だ。かなりの強い風だ。

途中、いくつかの信号が消えていた。警官が交通整理をしていた。帰りは上り坂も多くなるので、できるだけ労力が少なくて済むルートを辿ろうと思った。そのおかげで、小さな雑貨屋が目にとまった。蝋燭がないか訊いてみた。一番小さいのしかないのよ、とおばさん。ちょっと考えてから、まあ背に腹は替えられないや、いい、それでいい、それください、と答えた。

仏壇に上げる、あのサイズだった。

途中でだいぶ早い時間のうちに夕食を済ませた。帰宅してもまだ電気はついていたので、大急ぎでコーヒーを淹れ、落ち着いた。だが、しばらくしたら、電気が切れた。突然。ぷつん、と音を残して。まだ7時前だった。

やれやれ。

念のため大学に携えていった懐中電灯をバッグから取り出し、蝋燭を取り出した。

そうだ。マーマレードや豆板醤の瓶のフタを、捨てずに流しのわきに置いてあった。

取りに行った。しかし、考えてみたら、5年前に煙草をやめて以来、この家にはライターがない。たぶん、マッチもなかったと思う。はて、どうしたものか……

そうか。コンロだ。台所のコンロで灯をつけた。ビンのフタに灯をつけた蝋燭からロウを一滴たらし、そこに蝋燭を乗せる。昔は停電なんて日常茶飯事とまではいかないけど、よくあったよな、台風の時とか。だから蝋燭の立て方なんかも何にも考えずにできるんだよな、などと思いながら。

4つ5つこうして蝋燭を立ててダイニング・テーブルに置き、充電は充分のMacBookをそこに持ってきて仕事をした。iTunesで音楽など聴きながら。

クロノス・カルテットの『ビル・エヴァンズの音楽』、マリア・ジョアン・ピリスによるベートーヴェンのピアノ協奏曲集など。

なかなか落ち着く光だった。落ち着く雰囲気だった。落ち着く音楽だった。仕事ははかどった。

停電は2時間ほどで復旧した。9時にもならないころだった。